こんにちは。しまねです。
「魔性の子」を読み終わりましたので、感想を。
今、本屋さんのランキング上位を占めている話題のシリーズ。
どうもずいぶん昔からあるシリーズのようで、その新作がすごく久しぶりに出たとのこと。長年のファンの方々にとっては「待望の!!」とお祭り騒ぎになっているようです。
確かに発売日にはカフェーでマダム達が熱狂していて、なんだかこちらまで嬉しかった。小説の話で盛り上がるなんて、なかなか珍しい光景です。
偶然なのか、子供の頃読んでいたと言っている友人は、私が尊敬している子ばかり。
趣味が良いな~と昔から思っている子ばかり。
ここは世のブームに素直に乗ってみよう!と思い、手に取りました。
「魔性の子」 /小野不由美・著
発刊された順に読むか、話の順に読むかと議論が分かれるようですが、ここは友人にオススメされた順番で。
舞台は学校。教育実習生の広瀬を視点に、クラスで孤立している高里をとりまく奇妙な現象を軸に物語が進んでいきます。
さて、物語の感想の前に、文体的なことを
単語選びがオシャレ
以降ネタバレあり!!!!
よいでしょうか
それと、シリーズを全部読んでいる訳ではないので、コアなファンの方は温かい目で見てください。
生きづらさの描写が身に迫る
~本来いるべき世界は別にある~
教育実習性の・広瀬と、孤立している生徒・高里が心を通わすシーン
めげるたびに、帰りたいと思ってた。いつの間にかあそこは、あの世っていうより自分の本来いるべき世界のような気がしてたんだ。
これは、全中学生が思うことなのでは?
家族や学校でうまくいかない。そう思った時、もしかすると今自分の生きている世界の方がおかしいのでは??と疑ってしまいます。時に残酷に「実は本当の両親ではないのかも」、「何か仮想の舞台で演じているのでは?」と考えを巡らせてしまったり。
当時、誰にも言えなかったけど、確かにそう思った時期がありました。
大人になって気づきますが、あれは一種の自己防衛だったのかもしれません。
理不尽な校則、クラスメイトのいがみ合い、くだらないお説教、読まなきゃいけない空気、、
明らかに何かが間違っているのに、それを修正する力もない。もうヘトヘト。
そんな時、「もしかすると別の世界がある。今は少し違う世界に迷い込んでいるだけ」
と思ってしまう。これは逃げなのかもしれない。でも必要なこと。
逆にこの経験で現実を一つの「社会」として客観視できるようになったのかもしれない。本当にダメな時は社会を出れば良い。
広瀬と高里の繰り返されるやり取りに、当時悩んでいた頃の気持ちが、よみがえってきました。懐かしい気持ちに。
そういえば、あの気持ち、どこに置いてきたんだっけ??
逃避への警告
それでも人は現実の中で生きていかなきゃならないんだ。
広瀬の良き理解者・後藤のセリフ。
広瀬は一度は自分でそれなりに、社会と上手く付き合う方法を見つけ出していたのに、やっぱり心の奥底では疑い続けていたのでしょう。
自分で納得していない限り、考えは簡単に揺らいでしまう。
その後、広瀬は似たような考えを高里に伝えます。
広瀬は高里を説得しつつ、自身に言い聞かせているように感じます。
後藤先生も広瀬を説得しているようで自身に言い聞かせていたのかもしれません。
卑しさも受け入れて
お前の無意識は報復したいと思う。そしてお前の持っている『ちから』がそれを行う
高里はどんなに他人からひどい仕打ちを受けようと、怒りません。聖人のように人を許し、自分のせいにし、他人を心配します。立派ではあるけれど、どこか危うさを感じます。
次々と起こる災厄は、実は高里の無意識に人を恨んでいるせいだと広瀬は指摘します。
無意識と言われるとさすがの高里も否定の仕様がない。物語の中で初めて対立する二人にハラハラしました。
他人に怒ったり恨んだりすることを咎めているのではなく、そういった負の感情をを抱くことを認めなさい。というメッセージを感じます。
怒って良いんだよ。と。
非現実のストーリーを通して描かれるリアルな悩み
思春期の頃にぼんやりと抱いていた暗い考えが、物語を通して浮き彫りになりました。
現実ではありえない事件が次々と起こりますが、それを通して描かれる人間模様はどこまでも人間らしいです。妙に説得力があります。
最後に一つの道としてファンタジーの入口を
ただ孤独に立ち向かい、生きて。という強すぎるくらいのメッセージで終わらず、最後にファンタジーの扉が開きます。生きるでも死ぬでもない、もう一つの道といったところでしょうか。果たして、これは救いなのか。神秘的でオシャレな終わり方でした。
次は『月の影』に進みます!